第3回観音文化国際シンポジウム

観音思想における時代的な意味

 

はじまり

観音菩薩には「声を聞き苦を救う」「楊枝の水を三千にあまねくまく」とのいい伝えがあります。「三千」とは、現世の「三千大千世界」を指しています。中国の宋朝以来、観音の絵はおもに婦人の姿をしており、片手に浄水の瓶を、もう片方の手に楊枝(柳)の小枝を持つのが常です。浄水の瓶には甘露水が入っており、楊枝でそれをつけて眾生にふりかけます。甘露水を受けることのできる眾生は、助けと清らかさを得られます。


そのほかにも、観音菩薩が衆生を救済するイメージは多く、例えばもっと合理的に衆生に手を差し伸べるため沢山の手、沢山の頭を持っていることがあります。それは菩薩が多くの法門や、便利な道具をも持つことを意味しています。例えば、千手観音や十一面観音の頭や手、目や法器は、その救済の力がどれほど強く、有効であり、迅速かを信者たちに伝える意味を持ちます。観音菩薩はさまざまな変化を示すことによって、衆生の願いを満たすのです。

《千手千眼大悲心陀羅尼經》の中で觀音菩薩が成仏した時、称号は「正法明如來」だと言います。すでに仏という高い存在であったのが、どうして菩薩へと戻ったのでしょうか?そこには観音菩薩の「大慈悲」の精神が充分にあらわれています。既に解脱した聖人という存在でありながら、あえてまた修行者となることで、さらに眾生に近づき救済することができるでしょう。それが「倒駕慈航」(迷いの境界から、悟りの彼岸へ衆生を渡す慈悲の船)ということなのです。

 

観音菩薩は慈悲の具現としてだけでなく、各種の習俗や民間信仰と混ざり合い、多様なる信仰文化を生み出しました。学術思想や信仰実践の立場、あるいは芸術や彫刻、絵画や民間の慣習といった角度のいずれから見ても、観音菩薩は最も広がりをもつ大乗菩薩といえるでしょう。金剛乘佛教が広がるにつれ、西から東、インドから中東、中華の地、韓国、日本へと広がり、人種や民族を超えてもっとも広く長く信仰されている、それが観音信仰なのです。 


靈鷲山と観音菩薩とはそもそも、深い縁を持っています。「慈悲と禅」とは靈鷲山の宗風であると共に、心道法師が四衆弟子を指導する時の方針でもあります。禅とは、心を原点に戻す修行であり、そうして心が落ち着くことは、世界の落ち着きへとつながります。慈悲とは、観音菩薩の願力を実践することにあります。つまり観音菩薩のあらわす、慈・悲・喜・捨をとおして衆生を苦難から救うのが、観音の願力を実践する方法なのです。1983年に靈鷲山無生道場は、観音の修行成功の日をと同じ日に開山しました。2006年より心道法師は毎年、信者による21日間におよぶ大悲咒を指導したり、観音百供や四衆弟子を率いた禅修法門を行ったりして、観音菩薩の寂靜修(耳根圓通法門)に照らし合わせた実践を行っています。また靈鷲山無生道場は、2012年から21日間の大悲咒を行い、各地の講堂でも毎月「百萬大悲咒共修」や年一度の水陸空大法會などを開催しています。靈鷲山はあらゆる観音法門について収めた功徳を世界に還元し、社会の協調と地球の平和を祈願して、衆生と更なる善き縁との繋がりを手助けしていくのです。


靈鷲山は観音法門を修業する観音道場であり、歴代の観音像を多く所蔵していることでも知られています。たとえば、多羅観音、十一面観音、毗盧観音、千手千眼観音や百八尊観音像。観音像は、衆生への永遠の守護を象徴しています。観音像より感じられた特別な経験により、観音菩薩の精神を学び、学んだ人は観音の分身となってその精神を分け与えていくのです。大いなる慈悲の実践とは、みずからの周囲へと広げた慈悲と愛により、世界平和を推進していくことにあります。


福隆に位置する靈鷲山下院の金佛殿。
殿内にある「千手観音彩銅雕像」と、そのまわりにある彩色の108尊の銅製観音像は、2018年に完成しました。この作品は台湾彫刻界の巨匠、林健成が数年の歳月をかけて精魂込めて完成させ、精緻で華やか、かつ荘厳さを感じさせる造形技術を用いています。林健成制作の観音像シリーズとしては台湾唯一であり、世界でも貴重な芸術的傑作といえるでしょう。百八観音の示した造形美と荘厳さは、観音菩薩の大悲の具現であり、靈鷲山に受け継がれた使命を象徴するものです。

2018年に靈鷲山百八観音国際文化総会が成立し、台湾ではこれまで2回の観音文化国際シンポジウムが開催されました。第一回目のシンポジウムのテーマは「百八観音」で、世界中の仏教関係者および研究者を招いて、百八観音展をめぐる学術的な交流を行いました。第二回目のシンポジウムではテキストを出発点として、地域(空間)という切り口から観音思想が西から東へと伝播した意義についての討論を行いました。当初の計画では2020年に、日本の脩志學院に依頼して名古屋で「第三回観音文化国際シンポジウム」を開催する計画でしたが、新型コロナウイルスの感染状況を受け、一年延期いたしました。そして2021年12月に、日本と台湾とのリモート形式で行われる運びとなりました。

テーマ

●『観音思想における時代的な意味』
歴史や普遍性、時代とともに進化していく観音思想の意味を探る

●期日:2021年12月7日(火曜日)
台湾時間:10:00〜17:00
日本時間:11:00〜18:00

●場所:
台湾会場:台北市、国家図書館一階ブリーフィングルーム   (収容定員:50人)
日本会場:名古屋市、クレストンホテル(収容定員:110人、但し防疫対策のため、50人の入場制限あり)

●会議形式
新型コロナウイルスの防疫政策のためのオンライン開催。発表人はリモート形式で発表する。

●主催:靈鷲山全球百八觀音文化總會、漢學研究センター
   共催:日本脩志學院

●講者:

 

発表内容

A.論文発表
(一)講演:国立民族博物館名誉教授 立川武藏
基調講演:観音の来た道
(二)講演:靈鷲山佛教教團研究員 楊士偉
テーマ:慈悲と禅—靈鷲山心道法師観音思想の具体的実践
(三)講演:臨濟宗大本山南禅寺執事、財務部長 虎山義秀
テーマ:幸福の条件と観音菩薩
(四)講演:古建築研究室、臺灣古蹟審查委員 李乾朗
テーマ:台湾伝統の観音寺における殿堂形式的な空間設計の意味
(五)講演:大阪觀光大學教授 佐久間留理子
テーマ:インド後期密教にみる観自在菩薩の図像と観想
(六)講演:臨濟宗妙心寺派萬照山西光禪寺住職 檀上宗謙
テーマ:観音菩薩信仰によってもたらされた数々の私の奇跡

B.パネルディスカッション:『観音思想の現代意味』

台湾のパネリスト
パネリスト:
霊鷲山教団に属される法師の総代表
李乾朗:古建築研究室、臺灣古蹟審查委員会委員
陳清香:中国文化大學歴史学科教授
鄭志明:輔仁大学宗教学科教授(主任を兼ねる)
闞正宗:仏光大学仏教学科教授(主任を兼ねる)
黄運喜:玄奘大学宗教と文化学科教授(主任を兼ねる)

日本のパネリスト
司会者:周夏
パネリスト:
高岡秀暢:靈鷲山国際百八観音文化総会顧問
                曹洞宗相生山德林寺 住職
立川武藏:国立民族博物館名誉教授
虎山義秀:臨濟宗大本山南禅寺執事、財務部長
檀上宗謙:臨濟宗妙心寺派萬照山西光禪寺住職
佐久間留理子:大阪觀光大學教授
 

※追加説明
いき届かない場合があるとしたら、主催側はイベント内容の修正、中止および変更の権利を留保します